ポジティブ心理学では、「どんな時に幸せを感じるのか」ということを分析、研究する中で幸せを説明するモデルがいくつか作られてきました。
その1つが、「ヘドニアとユーダイモニア」。
「ヘドニア」と「ユーダイモニア」は、どちらも「幸せ」を表すものですが、それぞれの幸せの内容は対照的です。
ヘドニアとは
ヘドニアは、「快楽の幸せ」。
例えば以下のようなことで感じられる、心地よい幸せです。
- おいしいものを食べる
- ゆっくり入浴する
- 友人と楽しくおしゃべりする
ヘドニアの特徴
- 五感を通して得られることが多い
- ポジティブ感情が高まり、ネガティブ感情が減る
- 日常生活の中で得やすい
- 比較的短い時間しか続かない
ユーダイモニアとは
ユーダイモニアは、「自分の強みを活かして、意義あることに打ち込む幸せ」を指し、日本語では「生きがい」が近い意味合いを持っています。
「エウデモニア」「エイダイモニア」とも表記されます。
人生の最終目的は幸せ意外にありえない、と断言したアリストテレスが提唱しました。
アリストテレスは快楽とユーダイモニアを区別し、一時的な楽しい気分を味わう快楽に対して、人間に特有な理性の機能を善く働かせ、自分の能力をフルに活かした人生を送っていることをユーダイモニアと呼びました。
ポジティブ心理学の第一人者であるイローナ・ボニウェルは、ユーダイモニアの要素を「自己発達」と「超越(貢献)」であると指摘しました。
自分を発達(成長)させていくことと、自己を超えたものに貢献するときに、ユーダイモニア的幸福を感じるということです。
ユーダイモニアの特徴
- 意義あることに打ち込むことで感じられる
- 苦労や困難を伴うこともある
- 一定期間打ち込むことで感じられやすい
- 比較的長い時間続く
ヘドニアとユーダイモニアは両方必要
ヘドニア=快楽の幸せ、と聞くとあまり良い印象は持たないかもしれません。
しかし、ヘドニアとユーダイモニアは、どちらが良いとか悪いとかいうことはなく、人生にはどちらも必要です。
どちらをより指向するかは人によって異なり、最適なバランスも人によって違うとされています。
ユーダイモニア=生きがいを追求すると、途中には困難があったり、苦難を伴うこともあります。
そんな時、ヘドニア的な幸せは疲れ切った心身を癒し、再び意欲的に取り組み、困難に打ち勝つ力を与えてくれるのです。
注意!ヘドニアとユーダイモニアの落とし穴
人はともすればヘドニアをより強く求めてしまいがちです。
でも、ヘドニアには落とし穴があるので注意が必要です。
快楽のランニングマシン「ヘドニック・トレッドミル」
気分が上がる楽しいことをしたり、欲しいものを手に入れたりといったことで得られる幸福は、多くの場合、長くは続きません。
始めのうちは楽しく心地よく感じても、「快楽順応」によって間もなく慣れてしまい、より大きな刺激を求めてしまいがちです。
心理学ではこれを「快楽のランニングマシン」もしくは「ヘドニック・トレッドミル(Hedonic Treadmill)」と呼んでいます。
人は次々に快楽を求めてしまいますが、それはランニングマシンの上を走り続けるのと同じことで、決してゴールにはたどり着くことはなく、きりがないのです。
快楽順応に陥らないようにするためには、ヘドニア的幸福はそれと意識して心から味わうようにして、常に感謝の気持ちを忘れないようにすることが大切です。
中毒や依存症と結びつくヘドニア
例えば以下のようなものは、人の脳の快楽中枢をダイレクトに刺激し、簡単に快楽を感じさせます。
- 甘いもの
- スナック菓子
- 酒
- タバコ
- 麻薬、薬物
- ギャンブル
- スマホ
- SNS
- オンラインゲーム
しかし、これらには依存性があります。
日常生活に支障のない範囲で楽しむ分には良いですが(麻薬や薬物は絶対だめです)、これらがないと落ち着かないといった状態になったり、依存症に発展してしまうと、人生が大きく狂います。
幸福どころではなくなってしまうので、十分に注意してください。
それは本当にユーダイモニア?「やりがい搾取」に注意!
「やりがい搾取」とは、従業員に対して「やりがい」や「自己実現」を強く意識させて、低賃金で長時間働かせるなど、相応の報酬を払わずにサービス残業や低賃金という形で搾取することを指します。
教育社会学者である本田由紀氏が2007年頃に提唱しました。
会社から、やりがいや自己実現を悪用されていませんか?
雇用主から押し付けられた充実感で搾取されていないか、しっかり見極めましょう。