幸福でない人よりも、幸福な人の方が、人間関係がうまくいっている――。幸福について数多くの様々な研究が行われてきた中で、最も確実な研究結果の一つです。
愛し愛される能力は、生まれてから死ぬまでの間幸福度に強く影響し、他人との良好な関係は、健康や長寿をもたらします。
他者を大切にし、人との関係、社会とのつながりを大切にすることは、幸せになるための方法として効果的です。
この記事では、人間関係と幸福について知っておきたいことをまとめました。
人間関係がなぜそんなに重要なのか
一人でいる方が気楽、と思う人は多くいることでしょう。
人間関係には相当なわずらわしさも伴うので、無理からぬことです。
それでも、私たちの幸せには良好な人間関係は不可欠で、「幸せな隠者」はいない、とすら言われています。
人間関係はなぜそんなにも大切なのでしょうか。
人の根源的な欲求を満たす
人には、強力で安定したポジティブな対人関係を求め、維持したいという強い欲求があります。「何かに所属している」という感覚がないことや孤独感は、マイナスの影響が心にも体にも及びます。
特別仲の良い人ではなくても、同じ空間に人がいるだけでポジティブ感情が高まるという実験結果もあるほど。
人が人を求める欲求は、それほど強いのです。
太古の昔、例えば私たちの祖先がチンパンジーと共通の祖先と別の種になった頃から何百万年もの間、社会的なつながりが生き残りと繁殖を可能にたという側面があります。
集団に属することで、共に食糧を得て分け合い、敵から身を守り、また子供を持ち育ててきました。
人類の長い歴史の中で、人は他者との絆を育み大切にすることで幸福感を得られるように、進化してきたのかもしれません。
良好な人間関係・社会的関係は、私たち人間の根源的な欲求を満たしてくれるのです。
心身の健康を支えるリソースとなる
強固な人間関係からは、様々な支援が得られます。
中でも、良好な人間関係から得られる社会的支援は、心身の健康を支える重要なリソースとなります。
身体の健康
良好な人間関係を築いている人は、より健康的で長生きするという研究結果があります。心臓や血管などの循環器系、神経内分泌、免疫システムが活性化されるのです。
心臓が発作を起こした後の半年間で、感情面で支えがあった人はなかった人に比べて、生存率が3倍も高くなったという調査もあります。
これはほんの一例で、社会的な支援がもたらす体への好影響はたくさん報告されています。
精神の健康
強いストレスで苦しんでいるとき、話を聞いてくれる親しい同僚や友人、家族がいることは、それだけでも心強いものです。問題の解決に一緒に当たってくれたり、アドバイスしてくれたりということも、重要な支援となります。
例えば、大切な人を失ったとき。親しい間柄の人間関係からもたらされる慰めや支援は、ストレスホルモンの上昇を抑えてくれます。
人間関係は強力な、人生につきもののストレス対処のための重要な手立てなのです。
オキシトシンの分泌
人やペットとの親しい交わりによって、幸せホルモン「オキシトシン」が分泌されます。
オキシトシンは、人に親切にする、ハグをする、見つめ合うといったことで分泌される脳内物質で、心身を癒し、ネガティブ感情を緩和したり、ポジティブ感情を高めたりする働きがあります。
私たちの幸せには、このオキシトシンが欠かせません。
他者との良好な関係は、オキシトシンの分泌を促し、幸福感を高めてくれるのです。
幸福と人間関係の因果関係は双方向的
幸福と人間関係の因果関係は双方向的です。
家族や友人・恋人がいると幸福度は上がるし、幸せな人の方が友人や恋人ができやすくもあります。
幸福な人は友人や家族と良い関係を保ち、幸福であればあるほど人間関係が広がり、社会的な支援の輪も広がります。
幸せな人ほど結婚しやすく、相手を深く愛していると感じ、結婚生活も充実して長続きする傾向があります。
しかし人間関係には当然、わずらわしさも伴います。
また、強固な人間関係は一朝一夕にはできません。
人と良好な関係を築き育むためには、「投資」をする必要があります。
良好な人間関係を育む「投資」
「投資」といっても、お金を使うことだけではありません。
一緒に過ごす時間、集まりを催すための労力、気遣いや配慮。こういったものを注ぐこと全てが投資と言えます。そして多くの場合、注いだ以上のリターンがあるはずです。
良好な人間関係が、私たちの根源的な欲求を満たし、心身の健康を支えることは前項に述べました。
このようなリターンを得るための投資の例として、ここには「相手への反応」を挙げます。
「積極的・肯定的反応」で人間関係を育む
人から「良い出来事」を知らされた時の反応は、大きく以下の4種類に分けられます。
良好な人間関係を築くのに必要なのは、言うまでもなく、積極的で肯定的な反応です。
良いことを知らせた時、相手が自分のことのように喜んでくれたら、喜びは倍増します。また、相手の吉報を一緒に喜ぶ自分自身のポジティブ感情も高まります。
辛い時を支え合うだけでなく、良い出来事を喜び合うことも、関係を深め強固にしていくのに必要なのです。
積極的な肯定
強く関心を示し、肯定的なことを言います。
例えば、相手が何かの賞を受けたと知らされたときに「私も嬉しい!」と一緒に喜ぶ、「おめでとう!」と称賛する、「お祝いの会をやろう」と提案する、など。
消極的な肯定
肯定するものの、関心をあまり示しません。
「へー、そうなんだ」「ふーん、良かったね」といった、本当に良かったと思っているのか?と思わせるような反応です。
積極的な否定
あからさまに否定します。
例えば、受賞の報告に対して「そんな賞を取ったからって何になるというんだ!? もっと役に立つものを持ってこい!」といった、強く否定する反応です。
消極的な否定
あまり関心を示さずに否定します。
例えば、受賞の報告に対しては「誰でも簡単に取れる賞なんでしょ?何かが認められたわけでもないし、何の役にも立たないね」といった反応です。
友情にも投資が必要
幸福な人生にとって人間関係は重要ですが、必ずしも性愛に基づく人間関係が必須ということではありません。
長期にわたって育まれる深い友情も大切であり、また兄弟姉妹、いとこ、甥姪等近親者とのポジティブな関係も、人生においては幸福の源となります。
既婚者は、離婚経験者や伴侶に死に別れた人やずっと独身の人よりも幸福とされていますが、既婚者だけが幸福であるわけではありません。独身者は既婚者と比べてより広く友人関係を持ち、仲が良く、頻繁に連絡をとっているという調査結果があります。
友情も、何もしないで出来上がるものではありません。
自分をさらけ出し、秘密を守り、味方になり、悪口を言わず、友情や称賛を伝え、厚意に報いるといった、いわば「投資」を時間をかけて行い、育んでいくものです。
ただし、人を疲弊させるばかりで、幸福を減退させる存在の人もいるので、そのような人とは距離の保ち方に工夫が必要です。
結婚生活にも投資
届を出せば結婚は成立しますが、うまくいくかどうかは全く別の問題。
良好な関係を築くために努力が相当必要となる可能性があります。
以下のことは夫婦関係もしくはそれに準ずる関係を念頭にしていますが、それ以外の関係(親子、親戚、友人)においても応用できます。
たくさん話す
うまくいっている夫婦は、一緒にいて話す時間がうまくいっていない夫婦よりも週に5時間以上長い、という研究結果があります。
子供やテレビ、ラジオ、スマートフォンなどに気を取られず、二人だけで話す時間を意識して作り、話しましょう。
夫婦関係に問題があると、仕事や育児にも悪影響が及びます。仕事を減らし、子供を誰かに見てもらってでも、二人の時間を持ち会話することは有益です。
称賛、感謝、愛情を伝える
幸福な夫婦関係では、ネガティブな感情の比率1に大して、ポジティブな感情が5を上回ることが必要だとする研究結果があります。
夫婦間の会話に例えると、1つ小言や文句を言ったら、感謝や愛情、称賛などのポジティブなことを6つ伝えること。
一般的に、結婚すると幸福度は一時的に上がりますが、結婚生活の素晴らしさにもやがて慣れてしまうことなどから、2年ほどかけて徐々に下がっていき、やがて結婚前と同じ程度になることが知られています。
称賛・感謝・愛情を伝えると、伝えられた相手だけでなく伝えた本人も幸せになり、結婚生活への慣れによる幸福度の低下を防ぐことにつながります。
接触頻度を上げる
「愛情ホルモン」とも呼ばれるホルモン様物質「オキシトシン」。社会的な接触、特に皮膚と皮膚との接触によって脳内で放出されます。
共に過ごす時間に、肩を寄せ合う、手をつなぐ、ハグする、といったことでオキシトシンの分泌を促し、互いの愛と幸せを育むことにつながります。
建設的な夫婦喧嘩
夫婦間での意見の相違はあって当然。
時には怒りといった感情も、決して有害なだけではありません。
大切なのは、「建設的に」口論をすることです。
相手を侮辱したり人間性を否定したり、徹底的にやりこめたりするのではなく、相手を認めつつ自分の主張も伝え、建設的な結果を得られるよう互いに努力する必要があります。
言い合いを避けることは、短期的には満足感がありますが、長期的には結婚の満足度を下げてしまいます。
良いニュースを一緒に喜ぶ
パートナーに思いがけない幸運や成功があったら、一緒に喜びましょう。
相手にいいことがあったら、無視したり妬んだりするのではなく、前向きな態度を積極的に示すことが大切です。それは、相手との関係を大切にすることにつながるだけでなく、自分自身の幸福度が上がり、精神的な落ち込みが少なくなることにもつながります。
夢や目標を分かち合う
夢や目標を分かち合っている夫婦は、結びつきが強くなります。直接的な手助けができないとしても、人生における各自の夢や目標にお互いに関心を示し、あるいは評価し、敬意を払うことが大切です。
人間関係は生産性を高める
人間関係は生産性にも影響します。
以下には職場の例を示しますが、生産性への人間関係の影響は職場に限りません。家庭やボランティア組織など、人が集まるところにおいては共通のことです。
強みの研究で知られるギャラップ社が、世界の1500万人の会社員に対して行った調査によると、職場に親友と呼べる人がいるかという問いに対して、「いる」と答えた人は30%で、この人たちは仕事の成果や、仕事に対してベストを尽くす意欲、顧客満足に対するコミットメントが、「いない」と答えた人の7倍も高く、また、「上司や同僚が自分のことを気にかけてくれている」と答えた社員は生産性が高く、会社の利益への貢献度も高いという結果になったそうです。
逆に、上司と部下の関係がうまくいかない場合の部下の生産性の損失も莫大で、アメリカではそれが年間3600億ドルにのぼるという推定もあるほど。
逆に、人との絆を強く感じている社員ほど、仕事の効率化や自分の能力向上に努力する傾向があります。
組織運営や教育制度に幸福の視点を取り入れることで、生産性は一層高まることでしょう。
おわりに:良好な人間関係を築く努力を
人間関係は、楽しいことばかりではありません。
傷つけること、傷つけられること。
イライラさせること、イライラさせられること。
多くのストレスが人間関係からもたらされます。
しかし、人生がうまくいっている人は、そうでない人と比べると、家族や友人など大切な人たちと一緒にすごす時間が長いという調査結果もあるように、人は誰かと共に過ごすことで成長し、持続する幸せを得られます。
苦手な人と無理に必要以上に仲良くする必要はありません。
上記に挙げた投資をして、関係を一層強固に、良好にしていきましょう。
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