睡眠は幸福度に影響します。
長すぎる睡眠時間も良くないのですが、「最も睡眠時間が短い国」の首位を記録する日本の平均睡眠時間は大問題。
日本の幸福度や労働生産性が低いことと関係があるかもしれません。
睡眠の状況
日本人の睡眠時間は世界最短!?
日本人の睡眠時間が世界的に見て短いことは、複数の調査で明らかになっており、日本人の睡眠に対する意識の低さが表れているとも言われています。
NHKが5年ごとに実施している「国民生活時間調査」によると、1960年に8時間13分だった睡眠時間は、2010年には7時間14分と、およそ1時間減少しました。
OECD(経済協力開発機構)の調査でも、毎回韓国と並んで睡眠時間最短国の常連となっています。
心拍トレーニング製品メーカーのポラール・エレクトロ・ジャパン株式会社の調査によると、日本人の男女別平均睡眠時間は、男性6時間30分、女性6時間40分とそれぞれデータを分析した主要28カ国中最短の結果でした。
参考:PR TIMES|睡眠データ分析で日本の睡眠時間は主要28カ国中最短
睡眠を制する者が世界を制す
日本では、「寝ていたら時間がもったいない」と考える人がまだ多くいますが、海外では睡眠教育も行われるほど睡眠が重視されている国もあります。
ビジネスでトップレベルを走り続ける人の間でも、睡眠を大切にするのがトレンド。睡眠を制する者がビジネスを制するとさえ言われています。
短時間睡眠を続ける「睡眠負債」のデメリット
短時間睡眠を続ける=睡眠負債を積み重ねることのデメリットには、例えば以下のようなものがあります。
- うつ病の罹患リスクが高まる
- ネガティブ感情に敏感になる
- 脳の働きが悪くなる
- 学力が下がる
- 仕事や家事等の効率が下がる
- 仕事や家事等のミスを誘発する
- 交通事故の原因となる
- 肥満を招く
- がん、認知症などの罹患リスクが高まる
- その他様々な生活習慣病の罹患リスクが高まる
短時間睡眠のメリットはなく、かつこれだけのデメリットがあるのだから、短時間睡眠を続ける理由はもうないと言えるのではないでしょうか。
睡眠負債が招く反芻思考、精神疾患
睡眠時間が短い人は、思考が妨げられたり、同じ考えをめぐらせたりと、うつや不安傾向のような状態になりがちであるということが報告されています。
寝不足の状態だと、より長い時間ネガティブな刺激に囚われてしまい、そこから離れて別のことに意識を向けるのが難しくなってしまう傾向があり、これがつまり、否定的な堂々巡りの反芻思考を招いたり、物事に執着しすぎたりといった状態を招いてしまうのだと考えられています。
参考
睡眠負債が招く生活習慣病
不眠がうつ病のリスク要因であることは広く知られていますが、睡眠が不足するほど、
- 肥満
- 糖尿病
- 高血圧
- 脂質異常症
- がん
- 認知症
といった生活習慣病にもかかりやすくなります。
ホルモンの変調が肥満を招く
睡眠が不足すると、体内のホルモンが変調を来たして食べすぎと代謝の悪化を招くため、肥満につながります。
食欲を増進させるグレリンというホルモンが増える一方で、食欲を抑えるホルモンのレプチンが働かなくなります。そのため、睡眠が足りないと、満腹感を感じられにくくなり、食べすぎてしまいます。
また、睡眠が不足すると、成長ホルモンが減ってしまいます。
成長ホルモンは、糖や脂質を代謝するホルモンで、成長期を過ぎた大人も寝ている時に分泌されています。この成長ホルモンが減ることで、寝ている間に代謝が悪くなってしまいます。
血糖値の乱高下で代謝性疾患を招く
睡眠不足が続くと、血糖値の調整ができなくなります。
そのため。糖尿病をはじめとした代謝性疾患の罹患リスクが1.5~2倍に上昇します。
睡眠時間が6時間より短くなるほど、これらの疾病の罹患リスクが高まりますが、逆に8時間以上に長くなっても、罹患リスクが高まります。
睡眠時間は、長すぎても短すぎても良くありません。
睡眠不足でがん細胞が増える
2014年にシカゴ大学が行った研究では、睡眠を不足させたマウスでは、がん細胞が増殖しやすくなることが明らかになりました。がん細胞を攻撃するはずの免疫細胞が、睡眠不足だと、がん細胞の増殖を手助けするようになる可能性があるのだそうです。
これまマウスの実験ですが、人間でも同じことが起きている可能性が高いとのこと。睡眠負債は免疫システムの働きに影響を与え、がんの罹患リスクを高めいる可能性があります。
東北大学が約2万4千人のじょせいをたいしょうに行った追跡調査では、平均睡眠時間が6時間以下の人は、7時間寝ている人に対して、乳がんのリスクがおよそ1.6倍となっていました。
睡眠不足が招く認知症
日中活動していると、人の脳内には「アミロイドβ」という、いわばゴミが溜まります。
アミロイドβは、認知症の最大の原因であるアルツハイマー病も原因物質とされており、発症まで20年から30年ほどかけて溜まっていき、認知症の発症に至ると考えられています。
若い頃の睡眠不足が、数十年後の認知症を招くわけです。
毎晩7~8時間寝ることで、このアミロイドβをしっかり排出する必要があります。
死を招く「睡眠負債」
前項に記したように、睡眠不足は生活習慣病の罹患リスクを高めます。
日々の睡眠不足が積み重なり「睡眠負債」が大きくなると、命に関わるということが様々な研究で明らかになっています。
休みの日の「寝だめ」は基本的にNG
疲労を解消し、心身に再びエネルギーを満たすには、寝るのが一番。
でも、平日の睡眠不足を休日に取り返すためにお昼頃まで寝るような「寝だめ」は良くありません。
休みだからといって午前中いっぱい寝たりすると、体内時計がずれてしまい、休み明けが辛くなります。
寝ることで確かに疲れは一旦リセットできるのですが、体内時計がずれてしまうと、却って心身への負担が大きくなりかねません。
- 早く寝ていつもと同じ時間に起きる
- いつもと同じ時間に一旦起きて、日光を浴びて体内時計を動かしてから昼寝をする
このように、体内時計を狂わせない方法で睡眠不足を解消しましょう。
幸福度を上げる睡眠
最適な睡眠時間は7~8時間
最適な睡眠時間は何時間か、という議論は度々起こります。
日本人の平均的な睡眠時間と熟眠感の関係から、成人の場合、7~8時間の睡眠時間が睡眠充足の目安とされています。
生活習慣病の罹患率や死亡率との関係からも、7~8時間前後が適切な睡眠時間と判断でき、これは一つの目安となります。
ちなみに、アメリカの睡眠医学会が勧める睡眠時間は、大人で最低7時間。
ただし、日中の活動や季節によっても睡眠時間は変わります。
日中大変な活動をした場合にはより長い睡眠が必要だし、睡眠時間は一般的に、冬に長く、夏に短くなる傾向があります。
また、長く寝ても熟眠感が得られない場合もあるので、睡眠時間は飽くまでも指標の1つです。
良い睡眠で、宝くじで三千万円当たったのと同等の気分に
英・ウォーリック大学の調査によると、良い睡眠を得ることは、宝くじ当然と同じくらい、健康や幸福度に良い影響があるとする研究があります。
同大学心理学科のニコル・タング博士は、3万人を超える人々を4年にわたって調査し、睡眠の質を改善することで得られる心身への好影響は、宝くじ3千万円当選の喜びに匹敵するとしています。
また、睡眠が改善した人の変化は、心理的幸福を改善するように設計されたマインドフルネスに基づく認知療法の8週間のプログラムを完了した患者と同程度に匹敵するともされています。
はっきりとした因果関係が示されたわけではありませんが、この調査結果は、睡眠の改善に取り組むことが、幸福度アップにつながることを示唆しています。
参考
幸福感の高い人ほどしっかり寝ている
英オックスフォード・エコノミクスと英国立社会調査センター(National Centre for Social Research)が行った幸福度指数の調査によると、睡眠の質は、性生活や雇用の保証、近親者の健康といった要素を抜いて、幸福度と結びついていました。
また、幸福感の高い人ほど、しっかり休息や睡眠をとっていることも判明。
より良い生活にとって、良い睡眠は大切な要因です。
参考:The Sainsbury's Living Well Index
昼寝も幸福度を上げる
眠ることが感情の状態を改善する手立てとなることは、先人から生活の知恵として古くから言われてきましたが、それが心理学における研究によって実証されつつあります。
睡眠が認知機能に与える影響については多数の研究があり、睡眠不足のデメリットがますます明らかになっていますが、睡眠不足が感情面に与える影響については、最近になって研究が進んできているようです。
睡眠不足の状態の時、人はネガティブ感情に敏感になります。
英オックスフォード大学『ニューロサイエンス』に掲載された論文では、寝不足でネガティブ感情に敏感だった人が、昼寝をすることで、ポジティブ感情により敏感になることが示されました。
該当論文はこちら⇒オックスフォード出版局内
この論文の内容は、「The British Psychological Society Research Digest」でざっくり紹介されました。
⇒BPS Research digest内の紹介ページ
積極的に昼寝をしよう!
アメリカではグーグルやナイキなどが導入済みの昼寝。
日本でも近年、会社の慣行として昼寝を取り入れる企業が出てきています。
厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針 2014 」(PDF)によると、午後の早い時刻に30分以内の短い昼寝をすることが、眠気による作業能率の改善に効果的だそうです。
5分、10分の短い間、目をつぶっているだけでも、休息効果はあるとのこと。
日経スタイル|「昼寝20分」 働き方改革 午後の仕事、効率アップ
睡眠に関する参考文献
↑放送大学の教材です。
睡眠について、最も網羅的に、かつ最新の研究も反映した書籍と言えると思います。
↑あちこちのメディアで引っ張りだこ、睡眠研究の第一人者である三島先生の著作。
睡眠について知ることができるウェブサイト
不眠・睡眠障害など睡眠に関する情報を掲載しているウェブサイトの中から、信頼性が高く良質な内容のウェブサイトをピックアップしました。
厚生労働省のサイト
厚生労働省 みんなのメンタルヘルス>睡眠障害
睡眠障害についての概説の他、不眠の相談先も記載されています。
厚生労働省 e-ヘルスネット> 睡眠と健康
不眠症や性別、年代別の睡眠について網羅的に書いてあります。
製薬会社のサイト
快眠ジャパン
不眠の悩みを解消し、心地よい眠りを応援するサイト。
運営元のMSDはアメリカの製薬会社で、日本でも医療情報のサイトをいくつも展開しています。
スイミンネット
すこやかな眠りのための情報を提供するウェブサイト。
運営は「田辺三菱製薬株式会社」と「吉富薬品株式会社」。
快眠推進倶楽部
眠りの総合サイト。
運営はアステラス製薬株式会社とサノフィ株式会社。
その他サイト
以下は、比較的良質ですが、内容の確実性については読む人がそれぞれに判断する必要のある記事も中にはあります。読み物としては楽しめる記事が多いのではないでしょうか。
Sweemie
睡眠に関する情報サイト。
世界睡眠会議
睡眠に関するコラムがたくさん掲載されています。
自分向きの記事はちょっと探しにくいです。
このページからだと、興味のある記事にたどり着きやすいです。
睡眠についてまとめ
短時間睡眠は心身の健康を害し、幸福度も下げます。
7~8時間の良質な睡眠で、日々の疲れを毎晩リセットすることが、幸福度アップにつながります。
ぜひ睡眠の質を上げ、睡眠時間をしっかり確保しましょう。