現代人はとかく、気が散っています。Eメールやスマートフォンはその傾向を助長し、私たちはますます目の前のことに集中するのが難しくなりました。
幸せを先送りしがちな私たちの考え方
私たちは「現在」に集中しない生き方を度々強いられるます。
多くの人が子供の頃、学校や家庭で「しっかり勉強しなさい」と言われたことがあるでしょう。そうすれば、良い学校に入り、良い会社に入れて、良い人生になるからと。
社会に出れば、「目標を高く掲げて一所懸命に働こう」と、自分も思うし、親や上司からも言われることでしょう。そうすれば、出世して、お給料も上がって、良い暮らしができるようになるからと。
そうやって一所懸命に働いて管理職になり、余暇を楽しむ時間もなく忙しない生活を送っていると、引退した親に「時間がたっぷりあっていいなぁ」と感じ、親は「昔は良かった」と思っているかもしれません。
そんなにふうに、「今、まさにこの時」を味わうことなく、幸せは常に未来にあると思って生きていることが多くあります。
明日は今日よりも良くなる。
今辛抱すれば、将来が開けてくる。
そう自分に言い聞かせて、幸せを先送りにしているのです。
「今ここにある喜び」を大切に味わうこと
「味わうこと」は、喜びを生み出し、強化し、長続きさせることにつながります。今目の前にあること、今自分を取り囲む状況を楽しみ味わうことで、現在の幸せを一層深く感じることができるのです。
例えば、友人との会話。好きな本を読むこと。子供と散歩すること。合唱すること。親と夕食を共にすること。
時間を忘れてこれらのことに集中しフローの状態となれば、またこれらの行動や活動により感謝の念を持てれば、幸福感は一層高まります。
友人や親の話は、スマートフォンをいじりながら上の空で聞くのではなく、きちんと耳を傾けて共感を示したり、前向きなコメントを述べる。散歩ではただ歩くのではなく、草木や花々の匂いを味わい、季節を感じとる。
そのような方法で目の前の喜びを味わうことができます。
喜びを味わうためには、その難しさを知っておきましょう
喜びを味わう習慣は、幸福感と深く関係していることが研究によって明らかになっています。また、喜びを味わうことは、多くのポジティブな性質とも関係があり、喜びを味わおうとする傾向のある人は、より自信があり、満足度が高く、希望を失いにくいといったことがわかっています。
幸福度を高める他の方法と同様、喜びを味わうには努力や意欲が必要です。
私たちの日常には、目の前の喜びを味わおうとしている私たちの邪魔をするものが溢れています。
テレビ、スマートフォン、先送りにしている課題、振り込み手続きを忘れていた請求書、未申請の経費、整理しそびれている書類、カビの気になるバスルーム、溢れる情報。
こういうものが心に浮かぶと、目の前のことに集中できず、味わう余裕もなくなってしまいがちです。ポジティブなことに意識の方向を向け直して、今を深く味わうためにはそれなりの意志と努力が必要です。
また、私たちには「快楽順応」という性質が備わっています。最初はありがたく思い感謝していたことも、やがて慣れて感謝しなくなってしまいがちです。好きな人と結婚したこと、昇進してお給料が上がったこと、通勤途中の素晴らしい景色。そのようなものに慣れてしまわず喜びを見出し続けるには、やはり意志と努力が欠かせません。
今、目の前にあることを喜び味わう力を育む「マインドフルネス」
ハーバード大学やスティーブ・ジョブズ、Googleが取り組むことで一躍知名度を上げた「マインドフルネス」。マインドフルネスとは、今この瞬間に完全に意識を集中した状態を言います。
マインドフルネスの第一人者、ジョン・カバット・ジン博士は「意図的に、今この瞬間に、評価や判断とは無縁の形で注意を払うことから、浮かんでくる意識」と定義しています。
初めて目にすると難しいかもしれませんが、マインドフルネスを実践すると、この意味がきっと腑に落ちるでしょう。
マインドフルネス瞑想法は、仏教における瞑想の中核とされており、禅宗をはじめとした仏教諸派で重んじられています。ヨガにおいても呼吸や瞑想は重視されてており、実践したことのある人も多いのではないでしょうか。
マインドフルネスによって「今」という瞬間を意識的に生きることができるようになると、
- 痛みが緩和する
- 健康状態が良くなる
- ストレスに対処できる
といった心身の状態の改善をはじめ、ビジネスや学業、家庭においても成果を上げたり、対人関係が良くなったりといった効果があるとされています。
今を楽しむことの注意点
今を楽しみ味わうことは、幸福度を高める上で大変重要なのですが、それと「刹那的」とは違います。
未来を捨てて「今が楽しければそれでいい」と刹那的になることと、今を味わうことは、本質的に異なる行動です。
マインドフルネスについて参考書
マインドフルネスについてはたくさんの書籍があります。
ウェブサイト上にもマインドフルネスの情報はたくさんありますが、今のところ、入り口部分にすぎないものがほとんどのように思われました。
自分に合う書籍を見つけて、自分のペースで日々実践し続けることをおすすめします。
マインドフルネスを根本からしっかり理解したい人に
特に仕事に活かしたい人に
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「今」を生きることについて参考文献
- アルボムッレ・スマナサーラ、有田秀穂『仏教と脳科学: うつ病治療・セロトニンから呼吸法・坐禅、瞑想・解脱まで』サンガ、2015年
- ジョン・カバットジン『マインドフルネスストレス低減法』北大路書房、2007年
- ソニア・リュボミアスキー『幸せがずっと続く12の行動習慣』日本実業出版社、2014年
- ティク・ナット・ハン『ブッダの〈呼吸〉の瞑想』新泉社、2012年