この方法は、マーティン・セリグマンと共にポジティブ心理学を創始した、クリストファー・ピーターソンさんの著作『ポジティブ心理学入門』で紹介されているものです。
この本でピーターソンさんは各章の終わりにエクササイズを載せていて、このエクササイズは第1章のエクササイズ。
つまりポジティブ心理学という学問領域に入門して最初に行うエクササイズとして、自分の遺産を書いてみようというわけです。
↓この本↓で紹介されています!
ポジティブ心理学が科学的に証明する幸せ
色々あったけど、いい人生だった、って思えた方がいいよね・・思えるようになるのかな・・
ポジティブ心理学では、普通の人が日常的な環境の中でより豊かで実り多い人生を送っていくために、心理学の知識を用いてその最適な方法や手段について研究されています。
個人的かつ主観的な幸福観や幸せになる方法を語る啓発本は多数ありますが、ポジティブ心理学においては人生をより良いものとする事柄について、多くの心理学者が実証的に調査研究を行っています。
私たちの幸せを形作るものについて、科学の手法を用いて実証されているというところがポイントです。
自分の人生の最期を想像しよう
そんなポジティブ心理学の創始者による、ポジティブ心理学の入門書第1章のエクササイズは、「自分の『遺産』を書いてみる」です。
「遺産」を書く際のポイント
以下のことについて考えましょう。
- あなたの今後の人生がどのようなものであってほしいですか?
- 自分が死んだ後、最も親しい人たちに、どのような人間として記憶されたいですか?
―あなたのどんな行動や業績を語ってほしいですか?
―あなたのどんな長所や強みを思い出してほしいですか?
注意
- 謙遜しない&不真面目にならない
- 空想・夢想にふけらず、実現可能な範囲で書く
誰かに伝えることを前提にすると、謙遜したり不真面目になりがちかもしれません。もしその恐れがあったら、自分しか見ない手帳やノートに書きましょう。
また、「地球を侵略者の攻撃から守ったスーパーヒーローとして語り継がれる」といった類のものは、子供の夢としては良いですが、大人の「遺産」としては空想じみていますのでやめておきましょう。
「遺産」を書いたら読み返して、現実的なものかどうかを考え、また、現在の生活で、実現するための計画を実行できているか、あるいは今後実行できるかどうか、自分に問いましょう。
「遺産」は失くさず取っておいて定期的に見る&更新する
書いた「遺産」は、失くさないようにどこかにしまっておき、一年後、三年後、五年後等に読み返しましょう。
あなたが書いた「遺産」は、実現可能な理想像。そこに向かって前進できたかどうか時折確認します。新しい目標ができたのならそれを書き加えるなど修正もします。
毎年お正月や4月、誕生日などに目標を立てて書き留めている人は、その目標と一緒にしまっておくといいかもしれません。
「遺産」の意味するもの
このエクササイズが紹介されているクリストファー・ピーターソンさんの『ポジティブ心理学入門』では、「legacy」が「遺産」と訳されているので、この記事でも「遺産」として紹介しましたが、私たちが「遺産」と聞いて通常思い浮かべる「親から相続するもの」といったイメージとは少々異なります。
英語の「legacy」には確かに「遺産」「先人の遺物」といった意味がありますが、近年は後世に業績として評価されることを期待した、計画中の事業といった意味合いでも使われるようになっているので(例:大統領としてのレガシーを創る)、その意味合いも含めて考えるとわかりやすいかもしれません。
蛇足ながらIT業界で一時代前のシステムを「レガシーシステム」と呼ぶことがあるように、「legacy」には「時代遅れのもの」という意味もありますが、この意味合いとは異なります。
クリストファー・ピーターソンさんの言葉から
この「遺産」エクササイズを自身の著作で紹介しているクリストファー・ピーターソンさんは、こんなふうに書いています。
さて、その日がいつ来るのであれば、あなたの人生の最期について考えてみてほしい。その最後の瞬間に、あなた自身の人生を振り返る時間があるとしよう。あなたが最も満足に感じるのはどんなことだろうか?そして最も後悔することは?
あなたの人生はよい、充実した人生だっただろうか?たとえ困難なときでも、あなたは最大限の努力をしただろうか?あなたの人生において、あなたを愛してくれた人がいて、その愛に報いるようにあなたが愛した人がいただろうか?地域社会がもっとよくなるよう、あなたは自分から働きかけただろうか?
ピーターソンさんご自身は、娯楽小説を読んだり、料理を学んだりといったたくさんの小さな楽しみを後回しにして青春時代を過ごされたとのこと。そういうことは、そのうち時間ができたらやろう。大学を出たら、教職を得たら・・でも、意図的に時間を作ってやろうとしない限りそういうことをやる時間はないのだと気が付いたのだそうです。
働いてばかりで家族との時間をあまり持てなかったり、人目を気にするあまり自分の本当に好きなことができなかったり・・人生の最期にそういう後悔をしないためにも「遺産(レガシー)」を準備してみましょう。
「遺産」執筆について↓詳細はこちら↓
本書の書評はこちら⇒
「遺産」を書く参考に
そうは言っても、自分一人の想像力では人生の最期って思い描きにくい・・という場合におすすめの本を2冊ご紹介します。
どちらも緩和ケア領域でのお仕事経験をもとに書かれていて、ポジティブ心理学とは無関係の本です。
死ぬときに後悔すること25
緩和医療医の大津秀一さんによる著作です。単行本は平成21年に刊行されました。4年後に文庫化される前に25万部も売れたベストセラーです。
緩和医療医とは、生命を脅かす病気に直面している患者の苦痛を和らげるお医者さんで、1000人以上をみとった経験をもとに書かれています。
執筆当時は恐らく30歳かそこらなので、文章中には若さゆえと思われるあれこれが散見されますが、人がどんなことを後悔しがちであるかという傾向はよくわかります。やはり1000人以上看取るという経験は重いです。
例えば、死を前にするとこんなことを後悔する人が多いそうです。
健康を大切にしなかったこと
自分のやりたいことをやらなかったこと
他人に優しくしなかったこと
おいしいものを食べておかなかったこと
自分の生きた証を残さなかったこと
愛する人に「ありがとう」と伝えなかったこと出典:同書文庫版の帯から
ただし、多くの人が大なり小なり後悔するものの、その程度には大差があるとのこと。人生最期の時を意識して、限られた制の時間を精一杯生きようとしてきた人は、後悔が少ないんだそうです。
そりゃそうだろう、と思うかもしれませんが、やはり弱冠30歳程度で1000人以上がこの世から旅立っていくのを見送った人が書いているので重みがあります。
「遺産」を書くというポジティブ心理学のエクササイズは、この死に際の後悔を小さくする効果がきっとあることでしょう。
死ぬ瞬間の5つの後悔
2冊目は、ブロニー・ウェアという、オーストラリア生まれの女性による著作です。
ウェアさんは緩和ケアの介護領域で長年働き多くの人の最期を看取った人で、その経験をもとに書いたブログが注目を集めて書籍化されました。2012年に日本語版が出た時点で26か国語に翻訳された大ベストセラー。
ウェアさんによると、余命宣告を受けた人が人生を振り返った時の後悔トップ5は以下のものだそうです。
自分に正直な人生を生きればよかった
働きすぎなければよかった
思い切って自分の気持ちを伝えればよかった
友人と連絡を取り続ければよかった
幸せをあきらめなければよかった同書の目次から抜粋
もっとお金を稼げばよかったとか、もっと色々な物が欲しかったとか、そういうことを言う人はいないんだそうです。かつ、人間関係に関わることが2つ入っているとか、働きすぎなければよかったとか、ポジティブ心理学等幸福についての科学的研究の結果と通じるところがあります。
ちなみに、本書のもととなったブログのドメインにアクセスすると、本記事執筆時点では以下のURLにリダイレクトされます。
https://bronnieware.com
おまけ
「遺産」の執筆とは少々趣がことなりますが、人生の後悔を減らすのに役立つアイテムをご紹介します。
BUCKET LIST(バケットリスト)
掃除でお馴染みのバケツは最近「バケット」と呼ばれるようになったのか?その辺りの事情は知りませんが、とにかくこのノートは「バケットリスト」を書き留めるノートです。
「バケットリスト」って?
英語の「kick the bucket」という言い回し、直訳すると「死ぬ」となります。ここから、死ぬまでにしたいことを「bucet list」として書き留めるという習慣がアメリカで生まれたんだそうです。
このノートにやりたいことを書いているうちに、自分の人生で本当に大事なことが見えてくるかもしれません。
自分の本当にやりたいことで今後の人生を満たしていくのに、非常に役立つツールです。