ポジティブ心理学の創始者マーティン・セリグマンの提唱した、幸せを構成する5つの要素「PERMA」。
この1番目「P」は「ポジティブ感情」です。
ポジティブ感情は、私たちの人生をより意義深いものとしてくれます。この記事では、ポジティブ感情についてまとめました。
ポジティブ感情とは
ポジティブ感情は一般に、感情価がポジティブで主観的に気持ちの良い感情(good feeling)のことを指す。
出典:Shaver et al., 1987; Kitayama st. al., 2000; Shiota et al., 2011
この「いい気分」が生き方を、つまり人生を変える動機づけになると、ポジティブ感情研究の第一人者バーバラ・フレドリクソンは書いています(『ポジティブな人だけがうまくいく3:1の法則』)。
心理学の歴史は19世紀末まで遡りますが、その研究対象はほとんどがネガティビティでした。抑うつ、攻撃性、不安といったネガティブな状態と、それらが引き起こす疾病に関することです。
しかし、1998年にポジティブ心理学が生まれてからはポジティブ感情の研究も急速に進み、現在ではたくさんのことが明らかにされています。
ポジティブ感情を引き起こす「ポジティビティ」
「ポジティビティ(POSITIVITY)」は「ポジティブ(POSITIVE)」の名詞形です。
バーバラ・フレドリクソンは、ポジティビティの持つ意味合いについて次のように述べています。
ポジティビティは人間心理のもっとずっと深いところを流れるもので、感謝、愛情、楽しみ、喜び、希望、感動など、幅広い肯定的な感情を含んでいます。
「ポジティビティ」という言葉が漠然としているのにはわけがあります。
ポジティブな感情を引き起こす、前向きで楽観的な考え方や態度と、それによってもたらされる広い視野、優しい心、リラックスした身体、柔和な表情などの広範な意味を含むからです。
さらには、ポジティブ感情が性格、人間関係、周囲の人々や状況に及ぼす長期の影響までも含まれます。
出典:バーバラ・フレドリクソン『ポジティブな人だけがうまくいく3:1の法則』
だから、ポジティブ感情(少しの間もたらされるいい気分)は、心身に良い影響をもたらし、よりよい人生へとつながる、というわけです。
ポジティブ感情が私たちに与える「拡張・形成作用」
ネガティブ感情が私たちの心身に様々な影響をもたらすように、ポジティビティがもたらすポジティブ感情も私たちに大きく影響し、その積み重ねは長い間に大きな違いとなって現れます。
バーバラ・フレドリクソンさんはポジティブ感情のプラスの効果を「拡張・形成作用」と言い表しました。
拡張・形成作用には、以下のような働きがあります。
精神の働きを変える
ポジティビティは、暗い考えを明るい前向きなものに変えてくれます。このことで私たちの心は開かれ、受容性と創造性が高まり、思考の領域の広がりにつながります。
未来を変える
ポジティブ感情で心が開かれるによって起こる前向きな変化は、より良くより大きい変化を起こしていきます。
ポジティビティが拡大するリソース
ポジティブ感情をしばしば経験するうちに様々な能力が高まりリソースが拡大され、ポジティビティは長期にわたって良い結果をもたらし続けます。
身体的リソース
- 健康状態を良好にする
- 睡眠に好影響を与える
- 様々な病気にかかる確率を下げる
知的・精神的リソース
- 集中力が高まる
- これからのことが楽しみになる
- 思考の領域を広げてくれる
- 物事をやり遂げる力が高まる
心理的リソース
- 良い気分になれる
- 沈んだ気持ちを前向きに変えてくれる
- 自己肯定感が高まる
- 困難な状況から立ち直りやすくなる
- 人生に意味を見出すようになる
社会的リソース
- 信頼に満ちた深い人間関係を築けるようになる
- 人から支えられていると感じるようになる
私たちは、試練や逆境に見舞われたとき、これらのリソースを使って対処し、さらに成長して、次のステップへと進むことができます。
ネガティビティにブレーキをかける
ネガティビティには、一瞬にして心拍数を上げ、血圧を上昇させるといった働きがあり、この状態が長く続くと、心身に深刻な影響を及ぼします。
私たちの祖先が、どこに天敵がいるかわからない野山で暮らしていたときには非常に重要だった反応ですが、現代社会に生きる私たちにとっては、ネガティビティが有害となってしまうことがしばしばあるのです。
ネガティブ感情を増幅するネガティブ・バイアスについてはこちら⇒
ポジティビティは、このネガティビティによる反応を鎮めることができます。「リセットボタンのような働き」とバーバラ・フレドリクソンは言います。
バーバラ・フレドリクソンのトーク:ポジティブ感情は私たちの心を開く
「Barbara Fredrickson: Positive Emotions Open Our Mind」のテーマは、ポジティブ感情によって私たちがどのように視野を広げ、他人とより調和していけるか、ということ。
英語字幕は出せますが、日本語字幕はないようです。
https://www.youtube.com/watch?v=Z7dFDHzV36g
ポジティブ感情の種類
バーバラ・フレドリクソンは、代表的なポジティブ感情を10種類挙げています。
喜び Joy
すべてが期待以上にうまくいっていて、思わず笑みがこぼれ、心の内から光で顔の表情は明るく輝く。すべてを取り込みたい、色々なことに参加したい、といった気分で、遊び心も生じる。
感謝 Gratitudde
人の親切に対する感謝、周囲の環境や自分に与えられた能力に対する感謝など、与えられた何かについての価値を認めた時に生じる気持ち。
「お返ししなければ」負担に感じるのは「負い目」であり、感謝とは異なります。心からの感謝は、礼儀でも義理でもなく、もっと自由な発想で「恩返ししたい」と感じるもの。
安らぎ Serenity
環境が安全性でなじみがあり、特に努力が必要とされない状況で感じられる、快適で、気持ちの良い状態。
今という瞬間の感覚に意識が集中し、これをゆっくり味わいたい、こういう感覚をしょっちゅう味わいたい、と思う感情。
興味 Interest
新しいものごとに関心を持ち、謎を突き止めたい気持ち。
これをもっと知りたい、と思えるものに出会うと、心は広がって生き生きとし、新しい考えを取り入れ、より多くを学ぼうとする状態。
希望 Hope
絶望的な状況の中で、「最悪の事態を恐れながら、よりよい状況を望む」感情。
先は見えなくても、状況は変わり得る、これからきっとよくなる、という信念で、良くない状況の中においてもいい人生にしようと頑張らせる力の源。
誇り Pride
自分の努力と能力によって何かをやり遂げた時に生じる感情。誇りは困難な仕事を可能とする。
過剰な誇りは「傲慢」。適度な謙虚さによって抑制されていればポジティブ感情。
愉快 Amusemsnt
安全な状況の中で、思いがけない、かつ深刻でないことで、誰かと一緒に笑いあうこと。
鼓舞 Inspiration
奮い立つような感情が湧き出て、意識がくぎ付けとなり、心が熱くなる状態。自分でも行動を起こしたくなり、頑張って成長したいといった気持ちが湧きます。
感謝や畏敬とともに、自我を超越した感情で、人を自己満足から引き出してくれます。
人の素晴らしさに出会った時に、ネガティブな反応をすると「憎しみ」や「ねたみ」、「自己嫌悪」といったといったネガティブ感情が起きます。
畏敬 Awe
崇高なものや偉大な人を畏れ敬うこと。その偉大さに圧倒され、自分自身の小ささを感じて謙虚になり、自分が何か偉大なものの一部であると感じます。
自然の偉大さを見て感じたとき、人の偉大な功績を知ったとき、など。
愛 Love
愛は1種類のポジティブ感情ではなく、10種類のポジティブ感情の全てを含んで、その上に位置する感情。
安全で親密な人間関係の中で、喜び、感謝、安らぎ、興味、希望、埃、愉快、鼓舞、畏敬、全ての感情に心を揺さぶられます。
ポジティブ感情を増やすには?
ポジティブ感情を抱くと、心や体に様々な好影響があることを述べてきました。
では、ポジティブ感情を意図的に増やすことはできるのでしょうか?
答えはYes。
ポジティブ感情を増やす方法はいくつもあります。
自分のできそうなものを選んで、ぜひ習慣にしてください!
- 太陽の光を浴びる
- 感謝の気持ちを表す
- ハグする
- 親切にする
- 幸せそうに振る舞う
- ポジティブな感情が生まれやすい環境を作る
- ポジティブなことを思い出す
- 何かを楽しみにする
- 夢中になれることする
- 経験にお金を使う
- 強みを発揮する
- 目標に向かって尽力する
- 瞑想する
- 運動を習慣にする
- 睡眠時間を7~8時間確保する
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ネガティブ感情は「減らす」
以上述べてきた通り、ポジティブ感情は人生をより有意義に生きていくにあたってとても大切です。
一方、私たちにはネガティブ感情があります。
ポジティブ感情が有用だからといって、ネガティブ感情をなくせばいいのかというと、そうではありません。私たちにはネガティブ感情も必要であり、ネガティブ感情は、「なくす」のではなく、「減らす」のが正解です。
ネガティブ感情を減らすには?
ポジティビティは、ネガティビティに対して相対的に多いときに効果を発揮します。ネガティブ感情を減らし、ポジティブ感情を増やしていきましょう。
ネガティブ感情を減らすには、例えば
このような方法があります。
「ポジティブ感情を増やすこと」をやらないのは危ない
「ポジティブ感情を増やすことをやらない」でいるとネガティブ感情が増えるということも認識しておきましょう。
例えば、
- 日光に当たらない
- 人間関係を育てず孤独でいる
- 目標がない
- 運動しない
- 睡眠不足
- 栄養の偏った食事
このような習慣は、ネガティブ感情を増やすことにつながります。
知っておきたい「ネガティビティ・バイアス」
私たち人間にはもともと、ネガティブなことに注意を向けやすい性質「ネガティビティ・バイアス」があります。これれがあるからこそ、この地球上で生存競争に勝ち残ってきました。
しかし現在では、このネガティビティ・バイアスが却って私たちの幸せを度々邪魔します。
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