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[書評] ミハイ・チクセントミハイ『フロー体験入門』:人生を変える体験を重ねる

ミハイ・チクセントミハイ『フロー体験入門』:人生が変わる!のイメージ画像

おすすめ度 
2010年5月、世界思想社

何かに没頭した状態や、現在に完全に熱中している状態を指す「フロー」。
このフロー状態を意図的に起こして、人生をより充実したものにしていくためのヒントが満載です。

著者と概要

著者は1934年に当時イタリア領だったハンガリーに生まれ、22歳で渡米。ピーター・F・ドラッカーの後継者の一人とされるとともに、アメリカで最も影響力のある心理学者の一人であり、著書は世界中でロングセラーになっています。

チクセントミハイは、自身がその概念を提唱した「フロー」現象によって、私たちの生活を少しでもより良くするために、自分に何ができるのかを問いかけました。その答えが本書であり、著書の思いの結実です。

内容紹介

本書のテーマ「フロー」とは

フローとは、何かに没頭した状態や、現在に完全に熱中している状態を言います。時間が経つことも、我も忘れている状態です。

私たちはしばしば自分探しをしたり、自分を変えるために何をしたらいいかと考えることがあります。特に、嫌なことが続いて落ち込んだ時や、自分に自信が持てない時など、ネガティブな精神状態の時ほどそのように考えがちですが、チクセントミハイはそのようなことはしない方がいいと言います。

「ほとんどの人にとって、自分自身がどのようにあるべきか、何をするべきかについて考えることから得るものはない。熟慮は難しい技術であり、訓練されていない人々は、すぐに落ち込んだり、悪くすると絶望してしまうことさえある」

人生をより有意義で素晴らしいものに自然と変えていく「フロー」。

自分自身を変えようとして変えるのではなく、この「フロー」の経験を重ねていくことで、自分自身も自然に変わっていくものだ、というのです。

フローを体験するための知見満載

フローを体験するには、条件とコツがあります。それさえ揃えば、職場でも、家庭でも、趣味の活動でも、フローを体験できると著者は説きます。

では、意図的にフロー状態を起こすには、どうしたらいいのでしょうか。

本書では、フロー状態を体験する人々がどのようにしてそうなるかについて、私たちにとって身近に感じられる具体例を挙げながら、詳細に記述。

これらをヒントに、自分の場合何をどのようにするとフローが体験できるのかを考えて実践を繰り返し、読者がフローを体験できるよう導いてくれています

自由時間でフローを体験する

著者の心配事の一つに、幸福に結びつかない過ごし方で自由時間を使ってしまっている人が多くいることがあります。

幸福に結びつかない過ごし方というのは、テレビなど手軽な娯楽で時間を潰してしまっていることを指していて、今で言えばネットサーフィンや動画視聴も含まれるでしょう。

チクセントミハイが私たちに提案するのは、自分の能力を開発し、フローを経験することに自由時間の一部を使うようにしてはどうか、ということ。そうすることで私たちの人生はより充実していき、そのことによって私たちは一層幸せになるのです。

日々の生活を充実させ、人生を満喫したい人向けの一冊です。

感想

チクセントミハイさんは心理学の大御所で、幸福学関連の本を読んでいると、彼の名は何度となく登場します。

しかし彼の学問的な守備範囲は心理学にとどまらず、社会学、文化人類学、哲学等と大変広く、本書も心理学にベースを置きながら、社会学や文化人類学、歴史学の知見を踏まえた洞察が多く見られます。

そのため内容は学際的で非常に深いものとなっており、「心理学の本」と一言で言える本ではありません。「人生をより充実させるための実践的な良書」と言えるでしょう。

この本は1997年に書かれ、13年経った2010年にようやく日本語訳版(本訳書)が出ましたが、本質的な内容はちっとも古びていません。

でも、スマートフォンやインターネット等、著述以降の情報技術についての記載を加えて、さらにフローについての新しい研究成果を盛り込んで、後継本が出たら最高に面白いのではないかと思います。できれば、心理学や社会学に強いプロの翻訳者さんによる訳で、学者先生は監修に回っていただいて。

「フローを多く体験すること」は、幸福になるための方法、技術の一つです。死ぬときに「充実した人生だった!」と思いたい私としては、フローをできるだけ多く体験できるようにしたいと、改めて思ったのでした。

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